大和市の計画に対する意見

大和市では第一種住居専用において準防火地域とする計画があります。

市街地火災に強いまちを目指す活動の一環という事です。

12日(日)はシリウスで意見交換会というパネル展示がなされていたので、大和天満宮の総代として天満宮での打合せの後に6階に移動してパネル展示を確認し青木工務店の青木として以下の意見書を提出しました。

長文で専門用語もありますが、皆さんどう思われますか?

最後に私なりの代案も示しております。

1.大和市を含む神奈川県内は全域建築基準法22条指定区域(以下、法22条区域)となっている。法22条区域は建物がそれほど密集していない隣家とのある程度の距離が確保されている事を想定しており、隣家火災により外壁から延焼する事を抑制しようとするものである。

2.法22条区域は屋根不燃と外壁の延焼のおそれのある部分を準防火性能とすること等が求められる。準防火構造は告示1362号に示されているが土塗り壁など実際に使われる仕様のものはほとんど無く、上位性能となる防火構造(法64条および令136条の2の3)のモルタル外壁等やサイディング類の大臣認定の防火構造が大和市内では多く施工されている。

3.防火構造は外壁・軒裏に限定されて規定された構造であり、建築物の周囲において発生する通常の火災に対する延焼抑制性能となっている。

4.第1種低層住居専用地域で建てられる建築物は都市計画の規定からほとんどが住宅で2階建以下となる。今回検討されている準防火地域となる場合、現行の法22条と防耐火性能に関する主な違いは3つで、①軒裏が防火構造以上、②換気口がファイヤーダンパー付、③延焼の恐れのある範囲の開口部が防火戸となる。

5.一方、大規模災害での火災は消防車の到着が平時に比べ大幅に遅れる事や、消防車が到着できず消防活動が不可能になる事が考えられる。

6.消防車の到着が遅れる場合は建物内にいる人が一定時間の間は安全に避難できるように遮熱性(裏面温度が上がらない)、被損傷性(火災により構造躯体が壊れない)、遮炎性(燃え抜けない)について「一定時間の性能」が必要となる。それは防火構造の外壁では「30分」であり、より高性能となる準耐火構造では「45分以上」となる。

7.消防車が到着できない場合は消火活動が行われない状況においても、収納可燃物が燃え尽き火災が終了した後でも構造躯体が損傷せず建物の自立性が求められているため、耐火構造とする必要がある。

8.上記の通り、耐火と準耐火は達する目的が大きく違う。今回計画されている第一種低層住居専用地域での準防火地域の拡大では、大規模地震などによる延焼火災被害の軽減が目的となっているが、「4.」の部分だけの防耐火性能の向上に留まり、もっとも面積が大きく延焼が広がる恐れのある範囲となる外壁の防耐火性能は向上されない。

9.2050年カーボンニュートラル社会の実現にむけ、先の国会では建築物省エネ法の改正が可決された。2022年度には新築住宅において現行省エネ基準の義務化、2025年度には省エネ基準の更なる強化が確定されている。

10.開口部は熱の出入りが大きい部位であり、建築物の断熱性能の向上には開口部の断熱性能強化は必須となる。熱環流率U値は高性能な樹脂窓において非防火窓で1.5W/㎡・K程度、防火窓で1.7 W/㎡・K程度となり、次いで高性能となるアルミ樹脂複合窓において非防火窓で1.9 W/㎡・K程度、防火窓で2.1 W/㎡・K程度となり、非防火窓と比較して防火窓は総じて断熱性能は低くなる。

11.樹脂窓よりも更に断熱性能が良い木製窓においては防火戸の認定品は極めて少ない。

12.また、同等仕様の非防火窓と防火窓との価格差は、樹脂窓においては1.7倍程度、アルミ樹脂複合窓においては1.5倍程度となる。

13.また2025年度には建築物の外皮断熱性能向上や再生可能エネルギーの積載により重量化に対応するため建築基準法に「ZEH基準の新たな必要壁量規定」が設けられ、政令第46条の表2に追記される予定となっている。その内容は相当な強化がなされ、耐震化においても今後は既にコスト増は避けられないことになる。

14.「10.」「12.」の理由により今回の計画当該地域への新築住宅の建設では、求められる省エネ基準達成の難易度が上がり、かつ市民へのコスト負担を増やす事になる。また「13.」にあるようなコスト増の既定路線もあるため市民への負担感は更に増す事になる。

15.さらに、既存建築物においても計画後にはその多くが既存不適格建築物となり、増築のほか、改築、大規模修繕においては建築士事務所による建築確認申請を経て建築に着手となり、既存不適格部分となる防耐火部等に対応の為の費用が当該工事部分以外に生じ改修を行う必要がある事を市民に確実に認識してもらう必要がある。

16.「8.」と「14.」「15.」に示す通り、さほどの防耐火性能の向上が無く目的達成への有効性が限定される一方で、市民への負担は確実に増していくことになる。今回の計画の目的達成には「外壁の後退距離の制限」を新たに設けるなどの方法が市民への負担が軽減され、延焼の抑制に繋がる合理的な方法と考える。